視覚障害者就労の実情と展望 〜福祉・医療・仲間はいかに関わるべきか〜 工藤正一(NPO法人タートル) 1.自己紹介(発病から職場復帰まで) @実質的な職場復帰まで4年かかったこと。 A休職のための診断書を書いてくれなかった大学病院 B職業リハビリテーションを研修扱いで受けたこと(人事院と協議) C復職までの4年間で心がけたこと 2.タートルの立ち上げから現在に至るまで(タートルの歩みと相談活動) @1995年6月発足(来年満20年)、2007年12月NPO法人に移行。 A活動の原点は相談 タートル発足から活動の原点は相談にある。振り返ると、休職者の職場復帰支援から在職者の就労継続相談へ、経験者としての助言から専門機関と連携した総合的な相談へと、変化・発展している。 B2013年度相談概要 2013年度の相談件数は、視覚障害当事者(家族等からの代理相談含む)からの相談が244件あり、医療、福祉、就労支援機関その他からの相談が72件で、計316件であった。相談者は北海道から沖縄までと広範囲で、その半数は、関東地方であった。これらのうち、ロービジョン就労相談は26件であった。 相談を受け、必要があれば、ロービジョンクリニックの受診を勧め、産業医との連携が必要な場合は眼科主治医から産業医に対して、視覚情報並びに必要な配慮事項を記入した情報提供書を発行してもらうこともあった。 その結果、この1年間に、職場復帰8人、再就職10人、進学6人、計24人の進路が定まった。また、これ以外に、自立訓練(機能訓練)・就労移行支援・職業訓練等、次のステップにつながったものが多数であった。 3.事例紹介 ○事例1:委託訓練受講から復職へ(福岡県) 20代女性、視神経萎縮、会社員。大学卒業後、事務職で就職。6年後、視力低下あり産業医に相談、産業医から眼科医に紹介。視野障害にて身体障害者手帳5級該当、職業訓練の必要を認めた。地元に在職者訓練するところがなく、東京で訓練を受け、職場復帰した。 支援者等:産業医、眼科医、地域障害者職業センター、障害者職業能力開発校、委託訓練受託施設、タートル この事例からいえること(就労成功の条件) @障害の受容と前向きな姿勢 Aロービジョンケアを踏まえた関係者との連携 BPC操作技術の習得と歩行訓練による通勤の安全 C職場の理解・協力 D各種支援制度の活用 ○事例2:連携による職場復帰支援と採用後の合理的配慮(兵庫県) 40代男性、網膜色素変性症、(視野障害にて身体障害者手帳2級)、地方公務員(民間企業からの転職)。視覚障害が進行性のため、採用後間もなく就労困難となり、上司に退職を申し出た。その直後の相談。在職中にタートルに繋がったことにより、自立訓練(機能訓練)を受けて、職場復帰。訓練のためには職場の理解が必要。しかし、当時の本人の心理状態では職場を説得する自信がなく、知識や情報も少ないため、専門家に職場訪問と支援を依頼。その結果、3か月の自立訓練(機能訓練)を受け職場復帰。 支援者等:眼科医、視力障害センター、タートル(家族ぐるみ) この事例からいえること(就労成功の条件) @退職の意思表示の撤回と働き続けたいという強い意思 Aタートルの家族ぐるみの励まし(精神的な支え、障害の受容にも効果的) Bタートル、眼科医、訓練施設の連携・支援(同時進行) C職場に本人の希望と必要な配慮の申出 Dその際に専門家の同席と助言を得た(正しい情報提供) 4.ロービジョンケアの診療報酬化の意義 「ロービジョン検査判断料」(平成24年4月新設) 療養上の指導管理に、生活訓練・職業訓練との連携を含むとした。 5.今後の課題 @在職者訓練等、職業訓練機会の確保:施設も人材も少なく、訓練を受けたくても受けられないのが実態。そのため、数少ない既存の職業能力開発校と地域の委託訓練施設等(就労移行支援を含む)を効果的に活用する。 A視覚障害者に対応できるジョブコーチ(職場適応援助者)の養成:ジョブコーチは雇用される視覚障害当事者と雇用を受け入れる企業の双方に安心感を与える。 B歩行訓練士と職業訓練指導員の養成:企業が視覚障害者の雇用に当たって重視することは、通勤の安全と、一定のパソコンスキル(ヒューマンスキルも重要) Cロービジョンケアと産業保健との連携:誰もが最初にかかる眼科医療から、早期に適切な支援が得られるように、ロービジョンケアのできる眼科医を増やし、眼科医と産業医の連携を図る。 D視覚障害の正しい理解と合理的配慮の検討:改正障害者雇用促進法(2016年4月施行)。採用後障害が進行した場合の合理的配慮の提供としてリハビリテーションがあり、その決定に際しては当事者間の話し合いが前提となる。建設的な話し合いと適正な決定が行われるためには、専門家の助言・支援がカギとなる。そのためにも、一人で悩まず、視覚障害に理解ある支援機関等に繋がっていることが重要。 【タートルの主な成果物一覧】 *中途失明 それでも朝はくる(1997年) *中途失明U 陽はまた昇る(2003年) *視覚障害者の就労の手引書 レインボー(2006年) *視覚障害者の雇用継続支援実用マニュアル(2007年) *平成20年度厚労省障害者自立支援調査研究プロジェクト「視覚障害者の就労の基盤となる事務処理技術及び医療・福祉・就労機関の連携による相談支援の在り方に関する研究報告」(2009年) *DVD 優秀な人材を見落としていませんか?(2009年) *ガイドブック〜視覚障害者の「働く」を支える人々のために〜(2014年) *中途失明V 未来を信じて(2015年予定) 【独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の事例集】 *視覚障害者の職場定着推進マニュアル(平成22年3月発行) *視覚障害者の雇用事例集(平成23年3月発行) *障害者雇用マニュアルコミック版(平成25年3月発行) 【参考資料1:人事院通知】  職 職− 35 人研調−115 平成19年1月29日 各府省等人事担当課長 殿              人事院職員福祉局職員福祉課長                人事院人材局研修調整課長 障害を有する職員が受けるリハビリテーションについて(通知)  標記について、病気休暇(一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律【以下「勤務時間法」という】第18条)の運用及び研修(人事院規則10−3【職員の研修】)の運用に当たっては、下記の事項に留意して取り扱ってください。  1 病気休暇の運用について  職員の勤務時間、休日及び休暇の運用について(平成6年7月27日 職職−328)では、勤務時間法第18条(病気休暇)の「療養する」場合には、「負傷又は疾病が治った後に社会復帰のためリハビリテーションを受ける場合等が含まれるものとする」と定めている。すなわち、社会復帰のためのリハビリテーションであってもそれが医療行為として行われるものであれば、病気休暇の対象となり得るものであること。なお、負傷又は疾病が治る見込みがない場合であっても、医療行為として行われる限り同様であること。  2 研修の運用について  負傷又は疾病のため障害を有することとなった職員が病気休暇の期間の満了により再び勤務することとなった場合又は病気休職から復職した場合において、当該職員に現在就いている官職又は将来就くことが予想される官職の職務と責任の遂行に必要な知識、技能等を修得させ、その他その遂行に必要な当該職員の能力、資質等を向上させることを目的として実施される、点字訓練、音声ソフトを用いたパソコン操作の訓練その他これらに準ずるものは、人事院規則10ー3(職員の研修)の研修に含まれるものであること。 【参考資料2:障害者雇用促進法の差別禁止・合理的配慮に関係する条文】 ○改正後の障害者雇用促進法 第2章の2 障害者に対する差別の禁止等 (障害者に対する差別の禁止) 第34条 事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者に対して、障害者でない者と均等な機会を与えなければならない。 第35条 事業主は、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、労働者が障害者であることを理由として、障害者でない者と不当な差別的取扱いをしてはならない。 (障害者に対する差別の禁止に関する指針) 第36条 厚生労働大臣は、前2条の規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するために必要な指針(次項において「差別の禁止に関する指針」という。)を定めるものとする。 2 第7条第3項及び第4項の規定は、差別の禁止に関する指針の策定及び変更について準用する。この場合において、同条第3項中「聴くほか、都道府県知事の意見を求める」とあるのは、「聴く」と読み替えるものとする。 (雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会の確保等を図るための措置) 第36条の2 事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者と障害者でない者との均等な機会の確保の支障となつている事情を改善するため、労働者の募集及び採用に当たり障害者からの申出により当該障害者の障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならない。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。 第36条の3 事業主は、障害者である労働者について、障害者でない労働者との均等な待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となつている事情を改善するため、その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならない。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。 第36条の4 事業主は、前2条に規定する措置を講ずるに当たつては、障害者の意向を十分に尊重しなければならない。 2 事業主は、前条に規定する措置に関し、その雇用する障害者である労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。 (雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会の確保等に関する指針) 第36条の5 厚生労働大臣は、前3条の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「均等な機会の確保等に関する指針」という。)を定めるものとする。 2 第7条第3項及び第4項の規定は、均等な機会の確保等に関する指針の策定及び変更について準用する。この場合において、同条第3項中「聴くほか、都道府県知事の意見を求める」とあるのは、「聴く」と読み替えるものとする。 (助言、指導及び勧告) 第36条の6 厚生労働大臣は、第34条、第35条及び第36条の2から第36条の4までの規定の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、助言、指導又は勧告をすることができる。 第3章の2 紛争の解決 第1節 紛争の解決の援助 (苦情の自主的解決) 第74条の4 事業主は、第35条及び第36条の3に定める事項に関し、障害者である労働者から苦情の申出を受けたときは、苦情処理機関(事業主を代表する者及び当該事業所の労働者を代表する者を構成員とする当該事業所の労働者の苦情を処理するための機関をいう。)に対し当該苦情の処理を委ねる等その自主的な解決を図るように努めなければならない。