第6回仕事サロンレポート


日時 平成25年11月17日
内容 第一部 公園 「その気にさせるコミュニケーション力」 講師 吉岡久美氏
   第2部 交流会  
参加者  22名(懇親会参加者11名)
※きらら参加者9名(ランチ交流会参加者9名)

 第6回目となる今回の仕事サロンは、
社会福祉法人で相談支援に携わっておられる吉岡久美(よしおかひさみ)さんに、
周囲の人たちと互いに気持ちよく関わるためのコミュニケーション力をテーマにお話しいただきました。
転職により、環境が変わる中で
自分が必要とする支援を求めるだけでなく、
まず第一に気持ちの良い人間関係を作ることをベースに
自分が働きやすい職場の土台作りに努めてこられた吉岡さん。
相手に不快感を与えず、
どうすれば気持ちよく自身の障害特性を理解してもらえるか、
その上で、共に働く仲間と調和のある環境を構築できるか。
3か所の職場経験から培ったノウハウを、明るく爽やかに語って下さいました。
講演の後の交流会では、参加者全員が、職場におけるコミュニケーションの悩みや課題、現状について語りました。
相談支援員としての業務特性についての工夫や職場介助者についての情報も聴くことができました。

■講演要旨 「その気にさせるコミュニケーション術」■

★私に与えられた課題

私は、15歳で視力を失いました。
当時の私がまず感じたのは、「生きていけない」ということでした。
当然、自分が働くということを思うことすらできませんでした。
見えていた頃の私は、医者になることを夢見ていました。
失明と同時に、その夢は私の前から消えました。
2年間の引きこもりの後、盲学校へ進学し
初めて視覚障害の人と出会い、3年間を過ごしました。
大学入学以降、現在に至るまで
私は、見える人の中のたった一人の見えない自分として生きてきました。
今振り返ると、周りと関わるためには、自分の障害と向き合わざるを得なかったと思います。
「見えていないってどんなことなの?」を、
どのように見える人たちに伝えていくかが、私の課題でした。
そんな「私に与えられた課題」と向き合うことが現在も続いています。

★合理的配慮を求める権利と、働く中での義務を感じながらの葛藤

大学ではある程度授業保障がされていました。
それは、お金を払って学ぶ場所だからこそ求めることのできる保障です。
社会に出て働くという立場になればお金をもらう立場です。
どこまで合理的配慮を要求していいのかどこまで自分一人でクリアすべきか
働く中では常にこの課題が尽きることはありません。
見えている人たちに追いつかなくてはいけないという葛藤、
他の人と同じスピードで仕事ができないことを理解してもらった上で同じ給料をもらうのか・・・。
自分がどうしても越えられない部分を別の部分で追い越さねばならないのではないだろうかと考えることもあります
このように自分を追いつめることにも疑問を感じながら、
合理的配慮を求める権利と業務効率を上げる義務との狭間で悩みます。

★転職の中から重ねた経験、「理解しあうための工夫」

大学院に通いながら知的・精神障害者の方の就労移行支援事業所に勤務しました。
そこでは、言葉で通じない相手とのコミュニケーションスキルが求められました。
自分には一切見えない視覚情報が、利用者にとっては最も理解しやすいコミュニケーション法だったため、
レーズライター(ボールペンなどで書いた文字や絵が膨らむ特別な用紙)で
イラストを書き、相手に情報を伝え、理解につなげました。
自分は見えなくても、相手に見て理解してもらえることが大切と考え、
絵の下にかたかなとひらがなで説明を示すことで
相手に「私は見えない」ということを伝える手段としました。
二つ目の職場は一般企業。
私は就労移行支援をしながら、
自分が実際に企業で働くということを知らないことに違和感を感じていました。
まず、企業が何を求めるのかを知りたい!
私は企業でカタログを翻訳する業務に就きました。
私が業務の中で見えないゆえの「困る」に出会うたびに、
音声パソコンが何もかも読み上げるのではないことを説明しました。
私の申し出に対し、
「システムの問題なのか。スキルに問題があるのか。単にサポートに頼ろうとする甘えなのか」
と、上司や同僚は考えます。
写真を見ずにただ翻訳するだけではきちんと情報が伝わらない可能性もあるので
前後の文脈から判断し機器のデザインや形、用途等を想定しながらの翻訳をします。
機器を理解しつつ翻訳するために実際に機器を手で確認するとなると
手間と時間が必要となり、サポートを求めた相手に負担がかかります。
でも、正確な情報をとらえた上で翻訳しなければなりません。
また、限られた時間でどれだけの業務成果を出せるかをシビアに判定されるので
できないをできるにするための、サポートの求め方そのものに、葛藤がありました。

★これまでの葛藤から生まれた「伝え方・伝え続けること:」を今の職場で実践!

現在私は、社会福祉法人で相談支援員として働いています。
自転車やいすやごみ箱の位置が日々変化する職場の中で。
見えない自分には、それが障害になることを伝え続ける毎日です。
これまでの二つの職場で得たことは、
課題へのトライの中で生まれたメリット、デメリットを蓄積できたことです。
●自分にできること、できないことを
●少しずつ
●タイミングに配慮しながら
●繰り返し
●共に働く仲間に、
●気持ちよく伝え続けていくこと
を大切にしています。
そして、できないことについては
なぜできないのか ナゼ これだけの時間が必要なのか
「WHY」と「THE REASON」を明確に伝えなければならないということです。
そして、「ここまで自分はやってういますよ」というアピールも
きちんと伝える必要があります。
そして、それは、少しずつ伝えます。
サポートの要求を小出しにするわけです。
一度に言うと、「この人仕事できないの」
「なんでここにいるの」
と、理解を求める行為が、マイナスの理解へと動いてしまいます。
「ちょっと」のキーワードを使い、
「御手すきの時にお願いします」とタイミングに配慮していることも伝え
実際、見えないゆえに困っている場面を説明する段には、具体的な問題点を提示します。
「エクセルのこうしたレイアウトは読まないので今後のレイアウトについてはお願いできますか」
という少しずつの理解につなげていくようにアプローチしています。
また、キーパーソンを職場に見つけておくことも大切です。
パソコン操作、上司への進言、漢字表記校正等、
それぞれの得意分野の人を見つけておくことも大切です。
その特異な人が手がすいたタイミングを待ち、
相手のできる力を信頼した上でのサポート依頼であることを伝えます。
「○○さん、パソコンのシステムに詳しいですよね。もし、今お時間があれば、少しこの部分で教えてもらえると助かるんですが、ちょっと見て頂くことはできますか」
サポートに対しては、
「助かりました。ありがとうございました。お蔭で仕事ができそうです」と笑顔で伝えます。
そして、「あなたのサポートの力が私の仕事を動かしてくれました」という、
感謝と成果をきちんとフィードバッグします。
こうした働きかけを積極的にすることで、業務効率が上がり、抱える問題も減ってきます。
できないことへのプレッシャーでしんどくなる時間、葛藤する時間を減らすことで
自分自身の仕事と向き合う気持ちもプラス方向へ動きます。
また、オフィス内で声をかけるタイミングの難しさは容易には解消されません。
不在の人が返ってきたら相手から声をかけてもらえるように伝言を頼みます。
また、今日の自分のスケジュールをよく見えるところに張り出しておきます。
相手から自分のことを気にしてもらうためのアピールです。
職場での合理的配慮を求めることは困難ですが、
飲み会等の場で、自然に自分の困ることをさらりと伝えています。
また、自分の困ることに対する周りの積極的理解につなげるための会話にも工夫しています。
「できます」を先に伝え、後から「苦手」を伝えるようにしています。
そして、自分にできる
できない
がんばる
サポートをもらう
この4点を考えて自覚しておく必要があります。
さらに、職場介助や同僚からのサポートについて
誰にどのサポートを頼むか
どうすれば効率的かを常にマッチングしておく必要があります

★見える人、見えない人を超えた働きやすい環境を提案!

困ったことを解決するために、まず上司に相談するようにしています。
「これはしんどいね」という共感を得て、
どうすれば共に働きやすいかを一緒に考えてもらえるように働きかけていきます
また、自分で環境を整えるための発信をします
不都合は根気よく伝え続けて
不都合により失敗することで周りに迷惑をかけないために自分なりの工夫を提案し、
それを、自分の勝手ではなく、みんなのためになる新たな工夫としてアプローチし
周りへの理解を求めていきます。
同じことを伝えるにも、提案の仕方で受け止め方がかわります
定位置にものを置くということを提案することが
みんなの働きやすいにつながることを
小さなことから伝え、提案し続けて
見えないゆえの工夫でなく、誰もにやさしい工夫であることとして
周りに受け入れられるよう働きかけています。
必要な環境作りのために
相手に不快感を与えないように気配りしながら、
あきらめず伝え続けることを
私はこれからも大切にしていきたいと思います。

■吉岡久美(よしおかひさみ)氏 プロフィール■

昭和57年 大阪市に生まれる。
地元の小・中学校に通う。
平成9年 失明。
2年間ひきこもる。
平成12年 大阪府立盲学校に入学
平成15年 同志社大学文学部社会学科入学後、1年半カナダに語学留学。
アロマセラピー資格、社会福祉士・精神保健福祉士取得。
平成21年 奈良教育大学大学院 入学
平成23年 半年間アメリカ・ロサンゼルス研修。
その後、大阪にて就労移行支援事業所及び福祉メーカー勤務。
現在大阪市内の社会福祉法人にて相談支援業務に従事。

■参加者の声■

★講師 吉岡久美さんからのメッセージ

このたびは、仕事サロンで話をさせていただく機会をいただき、ありがとうございました。
ご参加された方々と、上司や同僚との関係を築くコミュニケーションの工夫の意見交換もでき、
私自身が「この工夫はいいな!」と思うエッセンスを得ることのできた、良い時間でした。
それぞれの会社の雰囲気や人柄によるものが大きいのかもしれませんが、
いろいろな情報や手段を効き、「自分にとって」を考えてやってみることが大切なことてはないかと思います。
視覚障害が故の工夫や気遣いもあるかと思いますが、
「傷害の有無」を超えたコミュニケーションの大切さも多いように感じています。
会社内でのコミュニケーションが希薄になってきたと言われる今、
コミュニケーションを大切にする視覚障害者の発進が、周囲の雰囲気を変えていくこともあるかもしれませんね。
また、皆さんと様々な工夫や取り組みの意見交換ができましたら嬉しく思います。
ありがとうございました。 吉岡久美

★前向きになれる話に感謝!

吉岡さんの話を聴いて、職場環境を整えるには、
諦めずに努力すること、コミュニケーション力、周囲への気配りが大切と改めて感じました。
うまくコニュニケーションをとることで、上司や同僚との良好な人間関係につながり、
できないことがあったときに、「こうすればできるようになる」と言えるようになることがあります。
できることできないことを伝えることはもちろんですが、
できないことをどのようにしたらできるようになるのかを、自分の言葉で明確に伝えることが大切ですね。
これらは、見える、見えないに関係なく、日常生活においても大切だと思います。
吉岡さん、明るく前向きになる話をありがとうございました。

★重ねた時間が自分力を高めること

吉岡さんのお話は、障害の有無に関係なく、
自分力を高めるためのコミュニケーション力なのだと感じました。
吉岡さん自身の人間的魅力もそれを支えていることは言うまでもありませんが、
今の彼女の素敵さは
やはりあきらめない努力、
伝え続ける忍耐あってこそ重ねられた魅力だと思います。
つまり、今の素敵さには重ねられた時間があったことを推察します。
彼女と接した方が感じる明るさ、気配り、謙虚さは、
多くの人に心地良さを与えているのでしょうね。
吉岡さん、素敵な時間をありがとうございました。
参加者全員が相互に思いを共有でき、
サロンならではの、アットホームな雰囲気もあり良かったと思います。

★仕事サロン初参加、次回も楽しみです。

私は、仕事サロンに初めて参加しました。 職場でのコミュニケーションのとりかたについて悩みや工夫を共有できてよかったです。
自分のできることできないことだけではなく、
なぜできないか、どうすればできるかなど自分のことを細かいところまでりかいしていただけるように伝え続けることが大切だと感じました。
また、職場以外の部分でも積極的にコミュニケーションを取り、上司や同僚と距離を縮めることが大切だと思います。
来年にはわたしも就職する予定なので、今日のお話を大いに参考にさせて頂きたいと思います。
次回もたのシミです。
自らの経験をふまえ自身の視点でお話して頂いた吉岡さん、
また主催して頂いた関連諸団体のみなさんありがとうございました。

★今後の人間関係に役立てたい

今回は仕事をしている、いないに関係なく、
コミュニケーションに関するお話で、日常でも役に立つようなことばかりでした。
吉岡さんはとても前向きで明るくて、さまざまな工夫をされているのだと感じました。
私も今後、少しでも上手に人間関係を作れるように、吉岡さんのお話を取り入れつつ自分らしくやっていきたいと思いました。
吉岡さん、本当に素敵なお話をありがとうございました。

★勇気と元気をゲット!

吉岡さんのお話は、本当に素晴らしかったです。
自分以上に頑張っている仲間がたくさんいることを知り、勇気と元気をいただきました。
業務の中では困難もあるけれど、なんとか踏ん張って乗り越えていきたいと思っています。
サロン前に実施されたきららのランチ交流会も、とても楽しかったです♪